高架事業の商業政策 EQUiA竹ノ塚の事例からみる商店街の可能性と課題

 商店街研究会の8月例会は、竹ノ塚駅の高架事業に伴い開業したEQUiA竹ノ塚および周辺の商店街等を視察しました。その後、会員の中小企業診断士、鈴木文彦氏から講演いただきました。鈴木氏は講演にあたり、事前に東武鉄道の商業開発担当へインタビュー取材を行っています。
 冒頭、鈴木隆男会長から「自然発生的商店街が衰退していく中で、人工的な商店街であるEQUiA竹ノ塚開発の経緯、状況を見ていくことで、商店街の可能性と課題を考えるうえでのヒントを得たい」と今回の視察、講演の意義について説明がありました。
 以下、講演内容をもとにEQUiA竹ノ塚の状況と商店街の可能性、課題等についてご報告します。

 1.?竹ノ塚の今昔

  1900年に竹ノ塚駅開業。1964年に日本住宅公団(現UR)が花畑団地(77棟2,725戸)管理開始。その後も団地開発が進む。68年に駅ビルがオープン、77年にイトーヨーカドー竹ノ塚店開店。人口増と商業集積が進んだ。
2012年に「開かずの踏切」解消に向けた高架事業が起工。2022に足立区、UR、東武鉄道が「竹ノ塚駅前周辺のまちづくりに関する協定」締結。2024年高架化が完了し、高架下商業施設「EQUiA竹ノ塚」が開業した。
将来的には、東口駅前の竹ノ塚第三団地3号棟を撤去、駅西口・東口広場を一体化するなど、ウォーカブルなまちづくりを目指す。


2.竹ノ塚駅周辺の商業環境

  竹ノ塚駅を中心とした半径約1kmに67,050人が住む。旧公団、都営住宅団地を中心に高齢化率が高い。1〜2人家族が多い。大卒比率が低く、技能職率が高い。若者は駅の東側、子育て層は西側に多い。
竹ノ塚駅の乗降客数は平年で1日約70,000人。地下鉄仙台駅のほぼ同水準である。
駅周辺には8つの商店街がある。昭和40年に始まる歴史を反映した団地タイプの商店街であり老舗はない。テレビ東京の番組「出没!アド街ック天国」で取り上げられている。西側に3商店街、東側に5商店街(駅東口の名店街とイトーヨーカドー寄りのセンター通り周辺の4商店街)がある。

3.竹ノ塚中心市街地の人の流れ

 RESAS・流動人口マップ250mメッシュから、駅東口・駅南東・駅西口・駅南西・センター通りにおける、コロナ禍前(2019年4月〜)とコロナ禍後(2024年4月〜)の人流を比較した。  テレワーク普及のためか、コロナ禍が収束後、完全には人流は戻っていない模様。駅東口の人流が最も多い。以前はセンター通りの来街者も多かったが、2024年3月のイトーヨーカドー閉店後、激減している。 休日の流出入をみると、平日に比べればコロナ禍前後の駅東口の人流の変化は小さい。一方イトーヨーカドー閉店によるセンター通りの流入者数の減少幅は休日の方が大きい 。

4.「個性豊かな商店街」を打ち出したEQUiA竹ノ塚

 東武鉄道はEQUiA竹ノ塚の市場環境を「昔ながらの商店街が今もなおにぎわう周辺エリア」「鉄道高架の構造」、ターゲットを「近隣にお住いのお客者様や、通勤・通学で駅を利用されるお客様」と定義、「個性豊かな商店街」をテーマに、まちの賑わいを演出するとしている(ニュースリリースより)。

5.EQUiAブランドのポジショニング

 テナント構成は、利便性を追求し、結果的に食物販や飲食店など「食」関連テナントが中心となった。これに加え、ファッション、雑貨、サービスなど幅広くリーシングしている。 東武鉄道は、駅の性格ごとに戦略を変えるマーケティング施策「ステーションフォーマット」を持つ。@乗換駅、A目的駅、B自宅駅の3つである。竹ノ塚駅は、朝と昼に利用者が多い、時間帯でニーズが異なるなどの特徴を持つ自宅駅に分類される。

6.EQUiA竹ノ塚立ち上げチームヒアリング

 「商店街を彩る演出」として、従来のSCとは異なり、外壁色を統一せずカラフルに、照明や広告も自由にした。滲み出し60cmを契約書上で認め、テラス、椅子やテーブルを自由に設置できるようにした。 近隣はエコノミークラス、高齢世帯が多いが、駅利用者の範囲はそれより広いこと、現役世代が集まること、世代交代スパンで大きく変わる可能性があることから、40代もボリュームゾーンとして、ミドルクラス価格帯を想定した。 地元店も入るように積極的に勧誘、交渉した。しかし。意思決定や保証金等の準備、契約締結など一連のスケジュール感(期限厳守に対する意識)、高架下店舗に対応できる施工業者の選定、詳細画面の用意、資金調達等への対応も難しかった。自己所有物件で営業している店にとって駅前の賃料は高かった。東武側としては、すべての店舗の開閉店時間を揃えたいし、高齢者向けに朝は早く開店してほしいが、個人店は朝遅く、夜は早く閉店したいと考えていた。面積で折り合わなかったケースもあった。 まちづくり協定と上位・下位関係はない。足立区・UR・東武鉄道は相互に不干渉だが、協定でビジョンやコンセプトを共有することで、それぞれ自主的な行動制約となるもの。

7.商店街の可能性と課題

 集積形態としての商店街には、「SCにはない自由な雰囲気」「まちあるきの楽しみに対する根強い支持」といった可能性がある。一方、EQUiA竹ノ塚の戦略から、SCによる商店街経営の可能性が見えてくる。「無秩序・雑多感に対するデザインコードの徹底」「リーダーシップ不足に対するQSCその他のガバナンスの確保」「不振店・シャッター店の温存に対する業況の把握を通じた規律づけおよびテナントミックスの全体最適化」「ブランドイメージの訴求・統一的な販促」などの戦略である。これらは既存の商店街組織の現状と課題とも言える。  地元個人店が中心の商店街の課題として「好立地は賃料相場が高く地元個人店の個性的な店舗経営が難しい」ことが挙げられる。チェーン店は本部経費が節約でき、独自のマーケティングが可能である。 一方、自己所有物件であれば事業利回りにとらわれず自由で個性的な店舗経営が可能。賃料相場が低い場所(裏通り等)にも勝機がある。  雰囲気だけではなく、自由かつ個性的な店舗経営が求められていることも、EQUiA竹ノ塚の事例から示唆される。賃料水準を上げた後に商売をやめ店舗オーナーに転じるのも一種のIPOであり、ビジネスとしては合理的であろう。