高架下の商業活動について

 商店街研究会の9月例会は、齋藤彰氏(中小協診断士、1級販売士、SC経営士)を講師に招き、高架下の商業活動について講演いただいた。齋藤氏はJR東日本でエキナカの店舗経営等に携わった経験があり、その立場から、高架下の特徴、活用の歴史、管理方法、最近の開発事例等について説明があった。

1.高架下の特長

 (1)鉄道高架下とは

 鉄道高架と地面に囲まれた空間をいう。幅は線路の本数、高さは交差する道路の影響を受ける。東北新幹線で環状7号線と交差する東十条駅付近東京外環道と交差する北戸田駅付近の高架は高い。

 (2)なぜ高架化されたか?

 @交通渋滞の解消

 車社会の進展で、遮断機が多いと交通渋滞が多く起きた。

  A他の手法に比べコストがかからない

 地下化、アンダーパスに比べるとコストがかからない。

 (3)時代区分でみる高架下

 現在のJR 東京周辺の主な高架下は、山手線:上野・新橋間、総武線:秋葉原・新小岩間、京葉線:塩見・新木場間、常磐線:綾瀬・金町間、埼京線:赤羽・浮間舟渡間、中央線:高円寺・吉祥寺間になる。

 @明治・大正期から昭和戦前まで

 中央線は御茶ノ水から万世橋まで、山手線は上野まで、総武線は両国まで、東海道線は新橋から有楽町までがそれぞれ終点であった。1914年(大正3年)に東京駅が完成するのに合わせて、上野と有楽町、お茶の水と秋葉原と両国、万世橋と神田間の高架が行われた。  高架化に関しては、ドイツなどからの技術を導入して行い、国の違いにより煉瓦の色やアーチや工事方法が異なった。

  A高度経済成長期(1970年頃〜)

  車社会となり東京外周部で高架化が盛んになった。

  B現在(2010年頃〜)

 現在は、耐震補強工事・駅改良工事により高架下に開発スペースが創出されている。

 (4)高架下の法的規制について

 【建築基準法】

  高架の工作物内に設ける事務所、店舗、興行場、倉庫その他これらに類する施設は建築物になる。

  【行政指導】

  接道状況による高架下の側道と配置状況により高架下、避難及び消防活動上必要な道路が設置される。

  (5)建運協定(昭和44年)

 建設省と運輸省の間で締結された協定で、国または地方公共団体が高架下を利用する場合、貸付可能面積の15%までを公租公課相当額として無料で使用できる。国や区は、駐輪場として利用することが多い。

 (6)高架下の用途

 駅ビル、店舗、駐輪場、事務所、駐車場、倉庫、公園、資材置き場などに利用されている。

 (7)高架化された年代による高架下空間の土地利用形態

  @昭和39年以前:小規模店舗(32.4%)、未利用地 (12.4%)、倉庫 (11.7%)

  A昭和40〜49年:駐車場 (24.0%)、事務所 (16.7%)、未利用地 (14.8%)

  B昭和50〜59年:駐車場 (28.9%)、未利用地 (12.9%)、大規模店舗(12.5%)

  C昭和60年以降:駐車場 (51.8%)、未利用地 (23.2%)、駐輪場 (10.7%)

 郊外化により高架下が増えたことで、駐車場の利用が増えている。

2.高架下の管理

 (1)管理手法について

 鉄道用地図では、東京駅を基準に背にして距離を決められる。用地境界や距離標が設置されている。  駅などの高架下の貸付物件の表示は、高架橋の所在:東京都千代田区鍛冶町二丁目〇番〇と一括で表示されるため、高架下の物件を管理するとき、東北本線 神田・秋葉原間 1K△△△m付近□□高架下第▽号と表示される。

 (2)事業者との契約について

 @間接貸付

  JRが土地賃貸借をJRTK(子会社)と契約し、JRTKが契約者と建物賃貸借を結ぶ。  所有区分について、土地はJR用地、躯体はJRTK財産、内装・電気水道等は契約者財産になる。

  A直接貸付

 JRが契約者と土地賃貸借と契約し、契約者はテナントと建物賃貸借を結ぶ  所有区分について、土地はJR用地、建物(躯体と内装)および内装・電気水道等は、契約者またはテナントの契約者財産になる。

 (3)駅ビルの契約金等について

   かつては、保証金を取っていたが今は取っていない。敷金は10カ月程度。毎月家賃、共益費、販促費等を徴収している。  定期借家契約は、デベロッパーによって契約期間が異なる。設備投資の大きい業種は契約期間が長い。例えば、厨房設備を持つ飲食店、医療機器を持つクリニック等である。

 (4)高架橋と土木構造物の適用法

  鉄道高架下の建物は、借地借家法の適用受ける。土地については、鉄道高架線路下の特殊性と公共性から、借地借家法の適用受けない。

3.開発事例

 (1)なぜ高架化の開発が注目されるか?

  @駅周辺に開発スペースがない

  A連続立体交差・耐震補強工事等により開発スペースを創出できるようになった

  B建築技術の向上により、高架下の振動・騒音対策が進歩した

 (2)JR東日本の主な高架下開発

 開発・運営会社(株)ジェイアール東日本都市開発

 主な事業:開発管理事業、オフィス・住宅事業、ショッピングセンター事業、物販・飲食事業

 @2K540: 2011年9月全体開業  場 所:秋葉原・御徒町間、施設特性 「ものづくり」をテーマとしたアトリエショップ(工房+ショップ)

  A日比谷OKUROJI 2020年9月開業  場 所:有楽町・新橋間、コンセプト 「100年の歴史を次の100年につなぐ」有楽町

  B阿佐ヶ谷〜高円寺 2017年4月  施設特性 阿佐ヶ谷駅周辺の商業施設を順次開発、近隣のJR社宅跡地を賃貸住宅・商業施設にリノベーション  施設名称 al;ku(アルーク)阿佐ヶ谷、開 業 2020年4月、施設特性 高円寺アニメストリート跡

  CBeans赤羽 場所:赤羽駅高架下 施設名称:開業1990年11月 アルカード赤羽、2000年4月アルカード赤羽生活提案館

  Decute赤羽 場 所:赤羽駅改札内 施設名称 2011年エキュート赤羽

 (3)私鉄での開発事例

 その他、私鉄では大森駅・梅屋敷間のものづくり複合施設(京浜急行電鉄)、浅草・東京スカイツリー間の東京ミズマチ(東武鉄道)、下北駅高架下のミカン下北(京王電鉄)、東北沢・世田谷間の下北線路街(小田急電鉄)などの開発事例がある。

中央支部 青山 直樹